劇団ちからこぶ、、、もとい、劇団ちからわざの「ムコウカタ」を観た。
今年小6になる娘にとっては、初観劇。二朗君の舞台を娘と一緒に観る、、、というのは
これはこれでなかなか感慨深いものがある。
彼との出会いは川崎のとある学習塾。
当時はカナダから帰国して、夢と現実の間でもがいていた頃でもあった。
夢というのは、今では口にするのもおこがましいが、映画を作ること。
でも当時は大真面目で、そのための突破口を開くべく、カナダへ1年間のワーキングホリデーに出たのである。しかし。あろうことか、彼の地で僕は、後に僕の奥さんになる人と出会い、同棲し、彼女を通じて己の甘ちゃんさ加減を嫌というほど思い知らされて、1年きっかりで日本に帰国したのであった。
帰国した僕は、映画に対する夢をいったん「棚上げ」して、学習塾で準社員の形で働いていた。ちょうどそのころ、アルバイトの時間講師としてうちの職場に現れたのが、佐藤二朗君であった。愛嬌のある大きな顔と、大きな足!そして、人懐っこい笑顔とどこか憎めないしゃべり。一聴、彼のしゃべりは完全に僕の故郷とおなじイントネーションを持っていることが分かった。「いやぁ、スガキヤのラーメンが懐かしいですょねぇ。」あ、この人、名古屋の人だ。。。
彼は文学座研究生を目指していることを自白し、やがてその通りになり、途中で抜けて渡辺えり子の「劇団○○○(さんじゅうまる)」の研修生となり、その卒業公演で主役をすっぽかし、そのおかげで渡辺えり子の旦那になるという愚を冒すことはなくなったが(彼の代役を演じた人物こそ、後の渡辺えり子のご主人である)、そのおかげでその世界にはいられなくなり、一旦は「役者やめます!」宣言を下したものの、やがて撤回して舞台を始めた。それが「ちからわざ」で、そこでの地道な活動が認められて、プロダクションを移籍。ここ数年、「あのぉ、顔の大きい、ちょっととぼけた役者は誰や?」と囁かれるくらいに、お茶の間にその姿をさらすようになった。
ちからわざは、彼の深層心理を具現化する道具である。
彼はよく「あぁ、あれはハッタリですから」とちょっとシニカルな笑み浮かべて、そう言うことがあるが、半分はハッタリかもしれないが、半分は大真面目に彼の内面世界の吐露なのだな、、、とようやく最近になって分かるような気がしてきた。
あの人は顔も体も足もデカいが、反面、恐ろしいくらいに気が小さいのだ。
それを克服するための手段としての「演技」であり、もっと言えば、それを職業としていく以外、彼に生きる手だてはないのだということ。その切羽詰まったものが、如実に表出するからこそ、彼の舞台は分かる人に認められ、彼の演技は世間からも認められ始めたのだということ。
僕はその彼の中の何か「切羽詰まった」もの、ある種の狂気が、彼の持つ独特の優しい雰囲気、何とも言えないユーモアに昇華された時こそ、役者・佐藤二朗の誕生であると信じてやまない。彼はまだ模索している。二つの相反するものの間で、もがいているような気がする。その葛藤に一刻も早く終止符を打たせたい気持ち半分、先延ばしにした気持ち半分。
追伸。3月、彼の初映画監督作品が、渋谷のシネアミューズにて上映される運びとなった。クソ。俺の棚上げしたままの夢を、横取りしやがって。

劇団ちからわざ第9回公演「ムコウカタ」(2007/1/22〜28、新宿シアタートップス)
作/佐藤二朗、演出/堤泰之、出演/佐藤二朗、河野洋一郎、平田敦子ほか
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