ラテン・アメリカに、乾杯! 第1部/ボクのメキシコ一人旅
4.国境へ
ダウンタウンの外れにあるというグレイハウンド社のバスディーポを目指して、空港前のバス停から市バスに乗る。乗り込んだ瞬間から不意に非日常が湧き出した。バスの運転手は大柄の黒人女性で、チューインガムを噛みながらいかにも旅行者然とした僕のことを訝し気に見ている。彼女の一挙一動が、まるでハリウッド映画のワンシーンに出てきそうな「アメリカ人」そのもので、僕は映画の中の世界に突然迷い込んでしまったような錯覚を覚え、それはまたとてつもなく心地のいい錯覚であった。そのままグレイハウンド社の巨大なバスディーポの中でひたすら時間を潰し、その日の深夜のバスでロスからアメリカーメキシコ国境の街・エルパソさして出発した。普通の旅人ならば、ロスから最も近いティファナからメキシコ入りするところだろうが、僕はわざわざアメリカ西部を横断してカリフォルニア州からアリゾナ州へ、さらにテキサスへと南部のど真ん中目指して進み、そこからリオグランデ川を徒歩で渡ってメキシコに入ろうとしている。なんとまぁ、遠回りの旅を選んだことか。途中フェニックス、ツーソンというアリゾナ州の街を経由して、眼前にぽっかりとエルパソの街並みが出現したのが翌日の夕方。いきなりの20時間バス旅行である。しかし、それもまた「僕の旅」にふさわしいではないか。その途中の風景もまたハリウッド映画が大好きな僕にはなじみの深い、西部の寂れた風景そのままであった。点在するサボテン。赤茶けた岩山。早朝のダイナーで飲んだ、さしてうまくもないコーヒーの味。途中で乗り込んできた保安官は、完全にクリント・イーストウッドだった。メキシコ国境を目指す最初の20時間のバスの旅は、とにかくそんなふうに目にするもの口にするもの耳にするもの手にとるもの、何もかもが非日常の産物で、僕はいちいちくだらないことに感動していた。
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